どんより小説だからこその良い読み方おすすめ度
★★★☆☆
「けむり詰めって知ってる?詰め将棋の一種で、こっちががむしゃらに攻めまくんの。
玉を追いつめるのに最初の一手をさすじゃん。あとは、自分の駒をどんどん取られながら
追いつめていく」
「それじゃあ向こうが優勢になっちゃうじゃないですか」
「そう。自分の駒は煙みたいにぽんぽん消えていくんだよ。だけどうまく解いたら、
最後の最後でちゃんと玉を追いつめられるってわけ。駒はほとんどなくしちゃうけど、勝つ。
その代わり、一手でも間違うとあとはゲームオーバーしかないんだよなあ」
「じゃあ、それが俺の人生だとか言うんでしょう」
「違うよ。あたしがそっくりなの。いろんなものをなくしてなくして、
それでも最後は勝つかもって夢見ながらやってんだもん」
135回芥川賞の「八月の路上に捨てる」は、ここ最近の芥川賞の受賞作と同じく
「みんなそれぞれの戦場があるんだ」という立場で、
どうすることもできない現代社会的な病理を描きつつ、なんとなく心を揺さぶって終わり、
というスタイル。審査員評も辛い。ここ数年ずっと辛い。
たしかにちょっと読後感がどんよりするのが多いなあと思う。希望を見いだせない。
振り逃げかよっ、と。ただそうやって斬って捨てるのは簡単。
どんより小説だからこその良い読み方ってあるんじゃなかろうか。
たとえば「けむり詰め」で人生を比喩した一節なんてのは、
一見希望のないネガティブな表現に読めるのだけれど、作品を最後まで読んで振り返ると、
あきらめないことへのポジティブなエールとも読み取ることもできるんですよね。
水が半分まで入ったコップを見て「もう半分しかない」と思うんじゃなく、
「まだ半分ある」と思って読んでいこうってことかな。
凄いの一言
おすすめ度 ★★★★★
わたくしめもついに買いましたよ
。値段の割には上出来。
こつこつお金を貯めてでも買う価値のある一品だと思います!